トヨタ FCV「未来」 価格は500万円前後 普及の多くの課題

トヨタは、今秋販売開始するFCVの車両名を「未来」と決定した。
政府は、1台につき200万円~300万円の補助金を出し、世界に先駆けて普及させる方針であり、500万円前後で購入できることになる。すでに国は予算化している。
また、水素ステーションの問題がFCVにあるが、ガソリンステンド等が平行して水素ステーションを開設する場合などに対しても補助金を支給する。ただ、新規設備投資の建設代には4億6千万円の設備投資が必要とされており、半額が補助されたとしても回収に長期を要し、設備投資できるスタンドは大手系列のガソリンスタンドの一部になるか、限られたステーションしか開設されないのではと見られている(現行ガソリンスタンド7千万円~1億円未満)。
EVカーが社会に進出したのは2010年(三菱i-MiEVと日産LEAF)て、早4年になるが、充電ステーション数と充電時間の両面から、普及には時間を要している。ガソリンスタンド等も充電料金では高く設定できず普及させていない。環境意識の高い欧州の経済不況、相変わらず大量消費を美徳とするアメリカのシェールガス革命により、欧米中の3大商圏の内、3大商圏とも普及していないのが現実だ。

<燃費 現行では1キロ当たりはガソリン車が安い>
トヨタFCVのタンクは156ℓ、走行距離700キロとされている。これから計算すると、
タンクは700気圧÷156ℓ=109200ℓ=109㎥、
走行距離700キロ÷109㎥=6.42キロ/㎥(㎥当たり走行距離が短い)
1㎥の価格は110円~150円(2009年経産省)
110円~150円÷6.42キロ=17~23円/キロ当たり
となる。
ガソリン車の場合、160円/ℓとして、10キロ~15キロ/ℓ走り、10円~16円/キロ当たりとなる。
よって、43.7%~70%高いことになる。

<燃費を下げる(1)>
水素は、日本の製油所(原油-蒸留-ナフサ-ガソリン)が、ガソリンを製造するプラントから、副産物として製造されている。
JX日鉱日石エネルギーは、燃料電池車向け高純度水素の新精製技術を開発したと発表した。パラジウムを使った水素だけを通す分離膜と、CO2を吸着して取り除く分離膜を組み合わせ、化石燃料から生成した混合ガスから高純度水素を取り出す。従来技術に比べて水素の回収率が2割向上し、製造原価を約1割抑制できるという。製油所はガソリン需要が減少し、水素の生産設備も43%(43億㎥)が余剰となっているという。
製油所以外では、製鉄所では、石炭を乾留するときに発生するコークス炉ガスに、水素が55%程度含まれ、全国で50億m3を上回る水素が副産物として生成されている。その他、石油化学やソーダ工業などでも副産物として製造されている。こうした量を合わせると、燃料電池車などに融通可能な水素は百数十億m3に上る。
ただ、こうした既存の施設の副産物としての水素価格は高く、1キロ当たり価格がガソリンより高ければ、なかなか普及はしないだろう。

<燃費を下げる(2) 水素価格を大幅に下がる可能性>
そこで、エンジニアリング大手の千代田化工は、水素運搬の新たな手法を見出した。水素をトルエンと反応させるとメチルシクロヘキサン(MCH)という液状の化学物質になる。1nm(1mmの100万分の1)以下の白金微粒子触媒を用い、MCHから水素を取り出す技術を世界で初めて開発した。実証プラントを建設中だ。
水素自体の液化にはマイナス253℃の極低温冷却が必要だが、MCHなら体積を500分の1にして、常温常圧で貯蔵や運搬が可能となる。
同社では、中東などのガス田地帯で天然ガスから製造した水素を、現地でMCH化し、ケミカルタンカーで国内に持ち込んで水素を供給するビジネスを構想している。
天然ガスの水素は「ガス田がそばにある産出国の現地なら、日本が輸入しているLNGの10分の1(15ドル~18ドルの1/10)の価格で手に入るという。

このMCHから水素を取り出す触媒をFCVの中で行えば、製造のネックのタンクも700気圧のタンクは不要となる。FCVでできなくとも、水素ステーションで、常温常圧の燃料タンクから触媒で水素を取り出し、供給できれば、5億円以上かかるとされる設備投資も物流コストも大幅に安くなる。
現行の水素ステーションの建設代は、ガソリンスタンドの4倍から5倍の4億6千万円もかかり、回収も長期になり、さらに販売価格に与える割合は25%とされ、価格引き下げの限界がある。そこで常温常圧の保管が可能ならば、大幅に建設コストを下げられる可能性を秘めている。

こうしたことが、製油所でなければできなくとも、価格は大幅に引き下げられ、普及が一機に進む可能性もある。ただ、現行の水素価格では、ハイブリッド化しない限り、燃費が悪く、普及にはかなりの時間を要するものと見られる。

<対抗馬のEV>
蓄電池も5年単位で高性能化が進んでいる。難点の走行距離問題は、現行高価なリチウム電池に変わる低価格で長時間高出力の蓄電池が現れる可能性もある。すでにマグネシウム電池は走行実験も行われている。

<そのほか>
1、FCVは、エンジンの耐久性は何時間だろう、2009年段階では2000時間(4年から5年)であった。経産省では、普及販売には5000時間(10年以上)を目途にしており、5000時間をクリアーしたのだろう。

2、先代のトヨタFCHV-adv(2009年当時)は、燃料電池90kW、航続距離830km、最高速度155km/h、水素タンク70MPaとなっていた。販売される「未来」は、ハイブリッドシステムは搭載されていない。「未来」も燃費下げるため、航続距離を伸ばす今後FCHVを投入する可能性がある。

3、燃料電池の新技術もいろいろ開発されてきている。2014年6月4日九州大学の小江誠司教授らは、『燃料電池の触媒に天然酵素ヒドロゲナーゼ、発電力が白金の1.8倍に!』と発表している。高価な白金よりヒドロゲナーゼは、リッター当たりの走行距離を伸ばせることを意味し、大きな期待が寄せられる。

4、マグネシウム電池などEVにかかわる新技術は東北大が力を入れている。一方、水素を燃料とする燃料電池は九州大学が早くから研究している。東北大学は商業ベースで実績多く、研究慣れし、また各種金属に強く、新技術開発に力を持つ、一方、九州大学は水素系燃料電池に早くから取り組んでいるものの自己満足の構図であり、トヨタの未来研究スタッフと商業ベースでどれほど成果を確実にできるか注目される。

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