トヨタ 人民網が「ゆっくりの哲学」を評価

中国共産党系の機関紙人民網が珍しくトヨタにつき、好意的な記事を次のとおり掲載している。

トヨタ自動車は、同社と中国合弁会社の今年9月の中国での販売台数は約9万1100台、前年同月比26.1%増加した。1~9月は約71万300台で、前年同期比11.5%増加した。

中国自動車市場の新常態(ニューノーマル)の下、トヨタの販売量が高い水準を維持し、中国での販売台数100万台の達成が実現可能な目標になってきた。

トヨタの好調な売り上げについて、メディアや世論はさまざまな解釈を試み、業界関係者は、「販売台数の伸びは技術面での成長に根源があり、トヨタの『小型車は量を追求し、大型車は利益を追求する』戦略と関係がある」との見方を示している。

また、製品のグレードからトヨタの販売台数増加の誘因を説明するだけでなく、トヨタの最近の中国市場におけるいくつかの出来事から説明することもできる。
その出来事とは製品の営業販売とは関係ないものだが、それがかえってトヨタの身体の奥深くからにじみ出る「ゆっくり」の哲学を明らかにする。

<ゆっくりの哲学>
この「ゆっくり」の哲学は、トヨタが販売台数世界一の座に安定して座り続ける根本的な原因でもある。

1つ目の出来事は、遼寧省にある遼寧トヨタ金杯技師学院の25周年記念式典。
同学院は中国の自動車合弁産業とともに成長してきたもので、トヨタが中国市場に進出した時、新車の普及拡大と技術者の育成という2つの道のうち、後者を選んだことを示す。
25年の歳月の中で、トヨタは資源とパワーを間断なく投入して同学院の発展を支援してきた。これまで9期にわたる支援を行い、累計支援額は1億元(約18億7千万円)を超えた。同学院のプロジェクトはトヨタが中国で持続的に展開する社会公益活動の中で最も歴史が古いものでもある。

ますます競争が激しくなる自動車市場において、ライバルたちが製品の布陣をむやみやたらと拡大し、スローガンを大声で叫び、自動車産業のチャンピオンの玉座に座ったと喧伝する中、トヨタは常に「クルマづくりより人づくり」の理念を踏まえてきた。
トヨタの目には、中国市場での真の国産化実現には、進んだ技術と製品を導入する必要があるだけでなく、人材の現地化を実現することがより重要なこととして映っていた。

トヨタの「クルマづくりより人づくり」の戦略は、大きな成果を収めた。これまでに中国人技術者260人以上がトヨタの自動車研究開発センターに入社し、ハイブリッド技術国産化の研究開発に参加してきた。

2つ目の出来事は、トヨタが新車4台を引っ提げて2015年の中国国際福祉博覧会に出展したこと。トヨタは、博覧会に参加した唯一の完成車メーカーで、出展したカローラ、ヤリス(ヴィッツ)、アルファードの新モデル、ハイエースのそれぞれの福祉車両には、身体が不自由な人の乗り降りに便利なように回転するデザインや車外に伸びるデザインが採用され、博覧会で大きな注目を集めた。

世界の福祉車両市場をみると、障害者に対して日本人が最もきめ細かく配慮し、トヨタは日本で福祉車両を最も多く製造するメーカーでもある。

トヨタが福祉車両を重視するのはなぜか。福祉車両は中国市場におけるトヨタにどれほどの営業利益をもたらすのだろうか。まずうなづけることは、福祉車両は中国にそれほど大きな市場があるわけではないということ。
この博覧会に出展したメーカーの顔ぶれをみると、自動車メーカーの多くが福祉車両市場を重視していないことがわかり、言い換えれば福祉車両市場には巨大な潜在力があるということ。

<中国の高齢者と身障者の合計は2億8500万人>
統計によると、中国には高齢者2億人と障害者8500万人がいるが、中国市場の法則と現状を踏まえ、多くの自動車メーカーは福祉車両市場を重視していない。
もともと福祉車両技術に秀でるトヨタからみて、この市場の潜在力は十分に魅力的であり、そこで中国での福祉車両をめぐる取組を継続的に進めている。

中国での「クルマづくりより人づくり」戦略と同じく、中国市場での福祉車両の拡大には、トヨタ独自の「ゆっくり」の哲学が反映されている。

この「ゆっくり」の哲学は、市場に左右されないリズムであり、自信の現れであり、1990年代に各メーカーが排気量の大きい車種を追求する中、トヨタがハイブリッドカー・プリウスの研究開発に力を入れ、最終的にハイブリッド市場で売上ナンバーワンになったことと似ている。

強いライバルに相対して、トヨタは身体の奥深くから「ゆっくり」したリズムを奏で続ける。こうした「ゆっくり」の哲学により、トヨタは世界市場で覇者の地位をつかむことができたのだ。

<トヨタの中国における社会活動>
中国宋慶齢基金会とトヨタ助学基金が主催する大学生サマーキャンプが8月、 四川省成都市で行われた。
5日間の同キャンプには、学費援助を受ける中国中西部地域の大学26校の大学生約260人が参加し、体験学習、社会実践、トヨタの知識講座、キャリアプランなどのイベントに参加した。

今年、中国宋慶齢基金会とトヨタ自動車が共同で設立した「トヨタ助学基金」は設立10周年を迎えた。設立された06年から10年には、大学20校の1060人を卒業まで援助した。
11年から13年には、大学25校の750人が援助を受け、無事卒業、就職した。
14年からは、大学26校の780人を援助しており、20年まで援助を続ける。
(中国宋慶齢基金会の故宋慶齢女史は孫文の妻で、1981年に「中華人民共和国名誉主席」の称号を授けられている。)
以上、

VWは中国では圧倒的な販売力を誇るが、大株主一族で20年間VWを指揮したピエヒ会長が2007年に、2018年には1000万台にするとの号令でイケイケドンドン、中国事業が急に急拡大したため2014年には1000万台を達成した。しかし、ピエヒ会長は、イケイケドンドン過ぎて会長の座を今年4月失った。こうした販売台数だけにこだわる経営体質が、今回の排ガス問題を引き起こしたものともいえる。
・・・人民網は、排ガス問題を起こしたVWに対して「ライバルたちが製品の布陣をむやみやたらと拡大し、スローガンを大声で叫び、自動車産業のチャンピオンの玉座に座ったと喧伝」と上記に掲載している。

トヨタは、プリウスに対するアメリカでの問題(主は言いがかり)により膨大な費用を要したが、販売に影響したことが最大の問題だったろう。
こうしたことから、現社長は、安全の質を求め、生産拡大のための新工場建設を停止、見直しを図り、やっと先般、メキシコでの新工場建設にゴーサインを出した。

日本で一番売れ、安定した車を造るのはトヨタ。チャレンジに欠けるが、最近では創業家からレーサー資格を持つ人が社長となったことから、大きく変わってきている。それも、奥田という国民だましの利益だけを追求したがむしゃらな経営者とはまったく異なる。
次世代車両が、2大IT企業を巻き込み、既存車両から飛躍的に進化を遂げようとしている。既存エンジンを突き詰めるところからは限界も見えてきている。

日本の政権や企業は、既に実績を作っている次世代電池の開発研究者に対して、巨額投資すべきであるが、フレキシブルな予算配分はノーベル賞でももらわない限り行われず、省庁や大学ともども頑固一徹の官僚主義が弊害の極みとなっている。・・・アメリカの大学との違いはそこにあり、中国の武漢や清華大にも大きく遅れをとっている。

日本では、失われた20年といわれるが、最大の問題は聖域なき削減、その結果、研究開発は大きく世界から遅れをとった。企業も聖域なき削減を行い、サムスンはじめ多くの韓国企業に転職、しかし、技術だけ吸い取られ、そのほとんどはユーターンして帰国している。その日本の技術者たちのノウハウこそが韓国勢が今や世界一の電子・電化製品製造国となった原動力になった。

企業の技術開発は所詮、「利」のための技術開発、大学の研究者たちとはまったく異なる。それも今では、大学ベンチャーとして開発技術パテントを大学が取得したり、支援した企業と共同所有したり、大学もそれなりに事業が行われるようになっている。ただ、目先の研究は、企業が研究すべき領域であり、代賛すべきではなく、ベースになる技術開発こそ大学や研究機関の研究者に求められている。

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